第1章 電気のきほん | 第3回 | 学習カリキュラムの目次を見る

ここまでの回で扱ってきた計算は、実は直流(ちょくりゅう)を前提にしていました。乾電池につないだ豆電球のような、シンプルな世界です。

ところが、私たちが実際に使っている家庭の電気は交流(こうりゅう)です。コンセントに来ているのも、電柱を通っているのも、すべて交流です。

交流には、直流には無い決まりごとがいくつかあります。ここを飛ばすと、次の回の力率(電気がどれだけ有効に仕事に使われるかの割合)や、過去問の問1〜10でつまずきやすくなるでしょう。この回では、交流とは何かだけを、ゆっくり押さえます。計算は最小限です。

直流と交流の違いは「向きが変わるかどうか」だけ

言葉は難しそうですが、違いは1つだけです。電気の流れる向きが、ずっと同じか、行ったり来たりするか——それだけです。

用語直流とは?

直流とは、電気の流れる向きと大きさが、いつも同じもののことです。乾電池、スマホのバッテリー、USBの電気がこれにあたります。プラスからマイナスへ、一定の勢いで流れ続けます。

なぜ?なぜ「直(まっすぐ)な流れ」と呼ぶのか?

時間で変化しないからです。グラフに描くと、横にまっすぐな1本の線になります。この「変わらない」という性質のおかげで、第1回で学んだオームの法則がそのまま使えます。

用語交流とは?

交流とは、電気の流れる向きと大きさが、波のように変わり続けるもののことです。プラスとマイナスが、1秒間に何十回も入れ替わっています。家庭用コンセントに来ているのはこちらです。

なぜ?なぜ向きが入れ替わっても、電気製品は動くのか?

多くの電気製品は「向き」ではなく「流れる量」で仕事をするからです。電気ストーブや電球は、電気が右に流れても左に流れても同じように熱くなります。向きが問題になる機器(テレビやパソコンなど)は、内部で交流を直流に変えてから使っています。

直流と交流は「向きが変わるかどうか」だけの違い家庭用コンセントに来ているのは交流です直流(DC)いつも同じ向き・同じ大きさ電池・USB交流(AC)コンセント・電線路向きと大きさが波のように変わる
直流はまっすぐ、交流は波。この波が1秒間に何回くり返すかが「周波数」です。

図のとおり、直流はまっすぐな線、交流は波の形です。波が上にあるときと下にあるときで、電気の流れる向きが逆になっています。

なぜ、わざわざ交流を使うのか

発電所から家までの送電を描いた図。発電所を出た電気は変圧器で電圧をとても高く上げ、送電線を通り、家の近くでふたたび100V・200Vまで下げられる。変圧器は磁気の変化で電気を移すため、磁気が一定の直流では電気が移らないことも示している
交流を使う理由は、変圧器で電圧を自由に上げ下げできるからです。

「向きが変わらない直流のほうが単純なのに、なぜ交流なのか」——これは初学者が引っかかりやすいところです。理由は電圧を変えやすいからです。

用語変圧器(トランス)とは?

変圧器とは、電圧を上げたり下げたりする装置のことです。鉄の芯にコイル(電線をぐるぐる巻いたもの)を2つ巻いただけの、部品としては単純なものです。電柱の上に乗っている灰色の円筒も変圧器です。

なぜ?なぜ変圧器は交流でしか働かないのか?

変圧器は「磁気の変化」で電気を移しているからです。交流は流れが変わり続けるので磁気も変化し続け、隣のコイルに電気が生まれます。直流だと磁気が一定のままなので、変化が起きず、電気が移りません。

発電所から家までは何十キロもの距離。電圧が低いまま送ると、電線での損失(熱として逃げてしまう電気)が大きくなりすぎます。そこで発電所を出るときに電圧をぐっと上げ、家の近くの電柱で100Vや200Vまで下げています。

この「上げて下げる」が変圧器で簡単にできるのが交流だから、送電も配電も交流でできているのです。

覚える覚え方

交流を使う理由は、ひとことで言えば「電圧を変えたいから」。遠くへ送るときは高い電圧、家で使うときは低い電圧。この切り替えが簡単にできるのが交流の最大の利点です。

周波数は「1秒間に何回くり返すか」

50Hzと60Hzの波形を並べた図。1秒間にくり返す回数が50回と60回でちがうこと、東日本が50Hz・西日本が60Hzに分かれていること、周波数で変わるもの/変わらないものを示している
周波数は「1秒間に何回くり返すか」。東と西で分かれています。

用語周波数とは?

周波数とは、交流の波が1秒間に何回くり返すかを表す数字です。単位はヘルツ(Hz)。50Hzなら、1秒間に50回、プラスとマイナスの入れ替わりをくり返しています。

なぜ?なぜ日本では50Hzと60Hzが混ざっているのか?

明治時代に、東京がドイツ製、大阪がアメリカ製の発電機を導入したからです。ドイツ製が50Hz、アメリカ製が60Hzでした。その後どちらかにそろえる機会がないまま今日まで続いていて、おおむね東日本が50Hz、西日本が60Hzに分かれています。

例周波数で変わるもの・変わらないもの

変わるもの … モーターの回転速度。周波数に比例するので、60Hzの地域のほうが速く回ります。

変わるもの … 変圧器やモーターの中の磁気の働き。同じ機器でも、周波数が違うと能力が変わります。

変わらないもの … 電球やヒーターの発熱。向きの入れ替わる回数が違っても、熱の出かたはほぼ同じです。

試験では「周波数が変わるとモーターの回転速度はどうなるか」という形で問われます。答えは「比例して変わる」。50Hzで動いていたモーターを60Hzの地域に持っていくと、1.2倍の速さで回ります。

実効値=「同じ働きをする直流に置きかえた値」

ここが交流でいちばん大事な考え方です。

交流は大きさが変わり続けます。ある瞬間は0V、次の瞬間は141V、そのまた次は0Vに戻り、今度はマイナス141V……。では「この交流の電圧は何ボルトですか」と聞かれたら、どう答えればいいのでしょうか。

そこで考え出されたのが実効値です。

実効値とは「同じ働きをする直流に置きかえた値」コンセントの100Vは、最大値ではなく実効値です最大値実効値実効値 = 最大値 ÷ √2 (約0.707倍)コンセントの100V(実効値)は、最大値では約141V試験で「電圧」と言われたら、ことわりがない限り実効値です
交流は大きさが変わり続けるので、「直流に置きかえるといくつ分か」で表します。それが実効値です。

用語実効値とは?

実効値とは、交流を同じ働きをする直流に置きかえたときの値のことです。例えば「実効値100Vの交流」は、100Vの直流をつないだときと同じだけ電球を明るくします。

なぜ?なぜ最大値ではなく実効値を使うのか?

最大値は一瞬しか出ていないからです。波の頂点だけを見て「141Vです」と言っても、ほとんどの時間はもっと小さい値なので、実際の働きとかけ離れます。実際にどれだけ仕事をするかで表したほうが役に立ちます。

用語実効値と最大値の関係

実効値 = 最大値 ÷ √2(√2は約1.41なので、およそ0.707倍)

最大値 = 実効値 × √2

コンセントの100Vは実効値。最大値は 100 × 1.41 = 約141V。

200Vのエアコン用コンセントなら、最大値は約283V。

なぜ?なぜ「÷√2」なのか?

電気の働き(電力)は、電圧の2乗に比例します。そのため「平均の働き」を出すには、波の高さをいったん2乗してから平均し、最後にルートに戻すという計算が必要です。正弦波(きれいな波)でこれを行うと、ちょうど最大値の1÷√2倍になります。

ぴったり半分ではないのはなぜか?
2乗してから平均するからです。単純に平均すると小さくなりすぎますが、2乗して平均すると大きい部分の影響が強く出るので、半分(0.5倍)より大きい0.707倍という値になります。

覚える覚え方

「コンセントの100Vは、実は141Vまで振れている」——この1つの事実を覚えておけば、実効値と最大値を混同しにくくなります。普段口にするほう(100)が実効値、大きいほう(141)が最大値です。

注意試験でのお約束

問題文に「電圧100V」「電流10A」と書かれていたら、ことわりがない限り、すべて実効値です。

「最大値」「波高値」(最大値と同じ意味)と書かれているときだけ、√2で割ったり掛けたりします。

√2=1.41、√3=1.73。この2つの数字は覚えておくと計算が速くなります。

交流でも、オームの法則はそのまま使える

ここまで読んで「交流は難しそうだ」と感じたかもしれませんが、安心してください。

抵抗だけでできた回路なら、交流でも直流とまったく同じ計算で解けます。実効値どうしで計算すれば、オームの法則も、電力の式もそのまま成り立ちます。

抵抗だけの交流回路の計算例

1問題 100Vの交流に、20Ωの電熱器をつないだ。流れる電流と消費電力は。

2電流を求める I = V ÷ R = 100 ÷ 20 = 5A

3電力を求める P = V × I = 100 × 5 = 500W

4直流のときと、まったく同じ計算で終わりました。

では、何が変わるのか。コイルやコンデンサ(電気を一時的にためる部品)が回路に入ったときだけです。このとき、電流と電圧のタイミングがずれて、「電圧×電流」がそのまま電力にならなくなります。

そのずれを表す数字が力率で、次の回のテーマです。

過去問では、こう出る

交流そのものを正面から聞かれることは、実はあまりありません。出るのは「実効値で計算させる」「周波数の影響を聞く」という形です。

例出題のされ方

①そのまま計算に使う … 「100Vの電源に…」と書かれていれば実効値。そのままオームの法則で解きます(問1〜10でいちばん多い形)。

②最大値との換算 … 「最大値141Vの正弦波交流の実効値は」→ 141÷1.41=100V。

③周波数とモーター … 「50Hz用のモーターを60Hzで使うと回転速度は」→ 速くなる(1.2倍)。

④波形の名前 … 正弦波・方形波(四角い形の波)などの図から選ぶ問題が出ることもあります。

注意つまずきやすいところ

最大値と実効値を逆にする … 大きいほうが最大値。100Vの実効値に対して最大値は141Vで、その逆ではありません。

√2と√3を取り違える … √2(1.41)は交流の最大値と実効値、√3(1.73)は三相(三つの交流を組み合わせた送り方。次の回で扱います)。出てくる場面がまったく別です。

周波数が高いほど電圧が高いと思ってしまう … 周波数と電圧はまったく別のものです。50Hzでも60Hzでも、コンセントは100Vです。

実際の出題は、過去問の解説記事で1問ずつ扱っています。この回を読んだあとに問1〜10を解くと、「あ、これが実効値のことか」とつながることでしょう。

まとめ

まとめこの回の要点

直流は向きが一定、交流は向きと大きさが波のように変わる。

交流を使う理由は変圧器で電圧を変えやすいから。

周波数は1秒間の波の数。東日本50Hz・西日本60Hz。モーターの回転速度は周波数に比例する。

実効値=最大値÷√2。コンセントの100Vは実効値で、最大値は約141V。

問題文の電圧・電流は、ことわりがなければ実効値。

抵抗だけなら、交流でも計算は直流と同じ。

次の回では、コイルが入ったときに何が起きるのか——力率の話に進みます。ここまでの「実効値」の考え方が土台になります。