ポンプを選ぶときに欠かせないのが全揚程です。難しそうに見えますが、中身は「持ち上げる高さ」と「配管で食われるぶん」を足すだけです。この記事では、ポンプを見たことがない状態からでも分かるように、何と何を足しているのかを順番に解きほぐします。

全揚程は「高さ」と「損失」の足し算

水をくみ上げるポンプの全揚程が、実揚程と配管の摩擦損失の合計になることを示した図
持ち上げる高さに、配管で食われるぶんを足したものが全揚程です。

用語全揚程とは?

ポンプが水に与える押す力の大きさを、水の高さ(m)に置き換えたもの。実揚程+配管の損失で求めます。

💡 なぜ?
水を運ぶのに必要な力は「どれだけ高く上げるか」だけでは足りないから。配管の中で水はこすれて勢いを失うので、そのぶんも上乗せしないと目的地まで届きません。

例全揚程 = ①+②

①実揚程……吸い上げる高さ+押し上げる高さ。つまり水面から水面までの差

②損失水頭……配管の摩擦で失う直管損失と、曲がり・弁で失う局部損失の合計

この2つを足すだけです。単位はどちらもm(メートル)にそろえるので、そのまま足し算できます。圧力(kPa)で書かれている問題では、水は約10mで約98kPaという関係を使って高さに直してから足します。

実揚程:水面から水面までの差

実揚程は、吸い込む側の水面と、吐き出す側の水面の高さの差です。途中で配管が上下していても関係ありません。見るのは最初の水面と最後の水面だけです。

なぜ?途中で山なりに配管が上がっていても、実揚程は変わらないのですか。

変わりません。上げたぶんは下りで戻ってくるからです。ただし配管が長くなれば摩擦損失は増えますので、全揚程は大きくなります。「高さは水面の差だけ、長さは損失に効く」と分けて考えてください。

注意注意

ポンプが水面より下にあって水が自然に流れ込む形(押込み)では、吸込み側の高さは実揚程から引きます。問題文でポンプと水面のどちらが上かを必ず確認してください。

損失水頭:流速の2乗で効く

配管の中で水が失う勢いを、高さに置き換えたものが損失水頭です。直管の摩擦による直管損失と、曲がり・弁・分岐による局部損失に分かれます。

何で決まるか 増える条件
直管損失 管の長さ・管径・流速v 長いほど、細いほど、速いほど大きい
局部損失 継手や弁の種類・流速v 曲がりや弁が多いほど大きい

覚える覚え方

どちらの損失も流速vの2乗に比例します。つまり流量を2倍にすると、損失はおよそ4倍。「速くすると、こすれる痛みは倍以上になる」とイメージすると取り違えません。

回転数を変えたときの変化

同じポンプの回転数を変えると、流量・揚程・軸動力は決まった割合で動きます。この関係を相似則といい、インバータ(モーターの回転数を自由に変える装置)で流量を絞る場面の計算に使います。

変わるもの 回転数との関係 回転数を2倍にすると
流量 回転数に比例 2倍
全揚程 回転数の2乗に比例 4倍
軸動力 回転数の3乗に比例 8倍

例現場の使いどころ

省エネの話でよく出るのがここです。回転数を8割に落とすと、動力は0.8の3乗=およそ0.51。つまり流量を2割減らすだけで、理論上は電気代がおよそ半分になる計算です。弁を絞って流量を減らす方法では、ここまで下がりません。

試験ではこう出る

よくある選択肢 判断
全揚程は実揚程と損失水頭の和である 正しい
実揚程は配管の全長で決まる 誤り。決まるのは水面の高さの差
損失水頭は流速に比例する 誤り。流速の2乗に比例する
回転数を2倍にすると全揚程は2倍になる 誤り。4倍になる
回転数を2倍にすると軸動力は8倍になる 正しい

よくある質問

Q. 揚程と圧力は何が違うのですか。

A. 同じものを別の単位で言っているだけです。水は高さ約10mでおよそ98kPaにあたります。問題文がkPaで書かれていたら、この関係で高さに直してから足し算してください。

Q. 吸込み側の高さには限界がありますか。

A. あります。大気圧で押し上げられる高さが上限で、実際には6〜7m程度が限界とされます。これを超えようとすると水が気化してキャビテーション(水の中に泡ができ、ポンプを傷める現象)が起こるのです。

Q. 計算がどうしても苦手です。

A. まず覚える式は「全揚程=実揚程+損失」の1本です。あとは問題文の数字をこの形に当てはめるだけなので、まず図にして水面がどこにあるかを書き込むところから始めてください。

まとめまとめ

・全揚程=実揚程+損失水頭。単位はどちらもm

・実揚程は水面から水面までの高さの差。途中の上下は関係ない

・損失水頭は直管損失+局部損失で、流速vの2乗に比例する

・回転数を変えると流量は1乗・揚程は2乗・軸動力は3乗で動く